ホラーゲームをやらせるな
20240505の夢について。01
目が覚めるとそこは日本家屋の一室のようだった。
家具のようなものは何もなく、私が横たわっていた隣にわざとらしく書類が2枚置いてある。
クリップで留められたそれは運転免許証のコピーとその人が書いたどこかの会社への告発文のようだ。
私には記憶がないが、運転免許証の髪型を見るにこれは“私”なのだろう。黒い髪がストレートに伸びており、私にも同じような特徴がある。鏡がないので確証は持てないが顔をベタベタと触ってみた感じも写真の人物に近しい。
この屋敷に連れられてきた意味はなんなのか、この書類が示すものはなんなのか。そして私は何者なのか──。
私はこの日本家屋を歩き回ってそれらを探さなければ行けない気がする。そんな気がした私は書類を持ち、ふすまを開け、違う部屋に足を踏み入れる。
途端、私は“恐怖”を知ることとなる。
ドタバタとどこかから足音が聞こえたかと思えば“同じ髪型”をした白いワンピースの女性が脇目も振らず私の方へ向かってきたのだ!
動揺し動けずにいたが最後、私は腕を押さえつけられ、少し汚れた髪に顔面を覆われながら首を食い千切られた。
-dead end-
02
目が覚めるとそこは日本家屋の一室のようだった。
家具のようなものは何もなく、私が横たわっていた隣にわざとらしく書類が2枚置いてある。
クリップで留められたそれは運転免許証のコピーとその人が書いたどこかの会社への告発文のようだ。
先ほどと違うのは、私には以前ここで殺された記憶があるということで、背筋が凍る感覚がまだ消えず恐怖心のために呼吸が浅くなっているということだ。
どうにかしてここから出なければ恐らく私は同じ目に遭いこれを繰り返すのだろう。
私は恐怖を頭の隅に追いやろうとしながら息を整え、ふすまを開け1歩踏み出した。するとあの女が同じようにまた廊下の木材を軋ませるように大きな音を立て私に憎しみをぶつけるように一直線に走ってくる。
分かっていても怖い。私は後ずさり、再びの"死"を覚悟する。しかし、そこで女が私を襲ってくることはなかった。
女はまるで結界にでも引っ掛かっているかのように、部屋の境に壁でも存在するかのように無を叩いているのだ。私を殺せないのが悔しいのか、女は鬼の形相で見つめながら口をパクパクとさせている。
それを見た私は心に余裕が生まれたのか、急速にこの“ゲーム”を理解した。
これはマルチエンディングのホラーゲームなのだと。女に食われればバッドエンドでやり直し。脱出したらグッドエンド。書類を全部見つけて脱出したらトゥルーエンド。
グッドエンドでは私の真相は分からず仕舞いでいい結果にはならないのだろう。
そして、この初期位置またはどこか別の書類のある部屋に女は入ってこられない。死に覚えて書類部屋の位置を把握して飛び込むなど工夫が必要なのだろう。
そう考えている間にも女はカチカチと歯を鳴らして私の判断力を鈍らせてくる。…正直、あんな死に方をするのはもう御免だしこれがフィクションであったならなと思う。
ああもう!
第一、こんな奴と追いかけっこするなんて有り得ないし私が真っ当な感覚を保って逃げ切れるとは思えない!
フィクション?有り得ない?ああ、これって夢なんじゃないか?
本当は書類を集めても自分を知る手立てなんて載ってないし、あの女が何者かなんて分からないし、告発内容も「驚くような真実を得られるもの」などではなく、話が繋がったことなんて何一つ書かれちゃいないただのシチュエーション設定なんじゃないか?
僕が“私”なんて一人称を使うなんておかしな話であるし。これは現実じゃないに違いない。
夢か。なんだ、これって夢なんだ。
ここから逃げられるならそっちの方が嬉しいしな。僕は恐怖から逃げるように納得する理由を並び立てる。
……。
でも、困ったことに夢に気付けたのにも関わらず一向に目が覚めない。
女のほうを見ればずっと見えない壁をガリガリと削っているし、この部屋の出口なんてあのふすまにしかない。今回もまた殺されるしかないんだろうか?
死を繰り返すと考えるだけで心臓の辺りがキュッとなり喉も緊張でムズムズしてくる。現実でないとしても死に直面する恐怖は極力味わいたくないものだ。
僕は目覚めるべきだ。こんな存在もしちゃいない日本家屋になんて僕は居られない。
主人公の私ちゃんのことなんてどうでもいい。僕にホラーゲームなんてやらせるな。
やりたい奴がやればいいが、僕にはこれを完遂するほどのホラーゲーム耐性なんかありやしない。
現実はどこだ?自分の内面に精神を集中してまばたきを繰り返す。
何度も繰り返す。
何度も何度も繰り返す。
視界の先がこの日本家屋の景色でなくなる時まで、何度もまばたきを繰り返す。
目が覚めるとそこは自宅の寝室のようで僕は酷く安堵した。しかし同時に、あの時脳裏に刻まれた記憶が簡単に消えないことを僕は悟ってしまったのだ。
-dream end-
ホラーゲームをやらせるな
2023/02/08 up